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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(あ)1938号 決定 1961年1月23日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人立崎亮吉の上告趣意第一点は違憲をいうが、実質は単なる刑訴法違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(そして事実誤認の控訴趣意に対する原判決の判示は、一審判決の事実認定と構成要件的評価を異にせず、且つ被告人の防御に実質的な不利益を与える程起訴の訴因事実を逸脱したものではないから、原審判決と手続に違法の廉はない。)

同第二点は単なる法令違反の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

のみならず、原審是認の一審判決によると、被告人は農業を営み農産物、肥料等の運搬のため自動車運転の業務に従事していたというのであり、これを記録に照らせば、被告人は農業を営むものであるが、自動三輪車の運転免許を受け、平素より自己所有の本件自動三輪車により農産物、肥料等の運搬をしていたことが認められるのであるから、被告人の右自動三輪車運転は刑法二一一条の業務に当ること屡次の判例の趣旨に徴し明らかである(大審院昭和一〇年一一月六日判決刑集一四巻一一一四頁以下、同院昭和九年五月二四日判決刑集一三巻七六五頁以下、同院大正一二年八月一日判決刑集二巻六七三頁以下各参照)。従って、その自動三輪車運転がたまたま所論のように農産物、肥料等の運搬に全く関係なく、被告人の所属する消防団の消防機械の定例手入式の帰途に為されたものであるとしても、その運転に関し、注意義務を欠いたため人を傷害した場合は、業務上過失傷害の責を免れないことはこれ亦屡次の判例の趣旨に照らし明らかである(大審院昭和一三年一二月六日判決刑集一七巻九〇一頁以下、同院大正七年一一月二〇日判決刑録二四輯一四一二頁以下各参照)。なお所論引用の判例はいずれも本件に適切でない。

同第三点は量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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